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森ノ人

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004

森にあるものを生かし、
また森へと返したい

木工作家 井上 祐貴 × 醸造家 北原 亮庫

土地の素材を生かしたものづくり

森ノ醸造所が目指すのは蘭越という土地からインスピレーションを受けた酒造り。その眼差しと共鳴したのが、この町で雪蟲WØRKSというブランドを主宰し、蘭越材による木工作品を制作する井上だ。北原と井上とが出会ったことで、醸造所から切り出した木は什器やテーブルウェアへと新たな息吹が吹き込まれた。

— 北原 森から切り出したものを活かしたいという構想をずっと持っていたので、同じ町内で井上さんが活動していると知って、ご縁がつながったと思いました。

— 井上 2023年12月ごろに連絡をいただいて、一緒に森を訪ねましたね。ずいぶん奥までコンディションの良い広葉樹が続いていて、「なんだ、ここは!」と驚きました。このとき北原さんがもうすぐ蘭越に移住するというタイミングだと知って、大急ぎで白州の住まいも見せていただきました。僕がすごく大事にしているのは、住まいにお邪魔して、家や家具はどんなスタイルなのかを自分の目で確かめることなんです。

森ノ醸造所の仕事は本当に嬉しくて、のめり込んでいます。家具メーカーや工房は旭川が中心地で、蘭越とは車で3時間半以上離れています。にもかかわらず周辺の施設では旭川から家具を購入するケースが多い。僕自身も旭川の製材所で製材と乾燥を依頼することもあって。以前は地元で製材も乾燥できていたのに、それが難しくなっていることが悔しいと思っていました。

また日本の家具業界では、加工しやすく品質も安定している海外材の使用も多いですが、僕は昔あった田舎の豆腐屋さんみたいに地域の素材でつくる感覚を大切にしています。やりたいのは「切り株まで案内できる家具屋さん」なんです。

森から切り出した木が、また森へ

醸造所の森で倒れていたマカバを見つけた。芯部はおそらく腐っているだろうと木こりの陣内は思ったが、チェーンソーで切ってみると予想外に良い材だった。居合わせた井上も驚いたという。森の中で寿命を全うし、割れもない。このマカバは、醸造所の空間でもひときわ目を引くテイスティングカウンターへと生まれ変わった。

— 井上 今回は木を切るところから参加できたので、すべての材に思い入れがものすごく強いです。マカバは製材も乾燥も蘭越で行うことができました。しかも、形を変えてまた森に戻る。これ以上幸せな材はないなと思います。

— 北原 醸造所の森を見ながら、切り出した材を使ったカウンターでテイスティングする。これは唯一無二の体験ですよね。ショップ内の什器のほとんどは井上さんの作品。ギャラリーのような空間になります。

— 井上 醸造所の建設段階から、北原さんの頭の中には明確なビジョンがあったので、それになんとか近づけたいと思って制作しました。僕はお客さんを工房に何度もお呼びして、途中経過を見ていただくようにしています。材は切ってしまったら取り返しがつかないですから。単なるオーダーメイドの家具ではなくて、徹底的に話し合って生まれた“ビスポーク”(職人が顧客のためだけにつくった一点もの)だと思います。

自然の中にある美を見出したい

自身で木を切り、製材し、家具まで仕上げる。そのすべてを木工作家が手がけることは稀だ。井上自身も「効率を考えると割に合わない」と語るが、あえてそこにこだわる理由がある。

— 井上 材木店では、まっすぐで素性の良い木が一等材とされます。加工がしやすいけれど、僕からすると木目が極端にシンプルなんです。僕が魅力を感じるのは、二股に分かれた材のように、材木店では扱われにくいもの。なぜ枝が途中で分かれたのか。それは台風で幹が折れたのか、日当たりの関係なのか。そこには「何か」があったはずです。自然の状況に耐えた力強さが木目に現れている。これは木が生きた証です。

— 北原 最初に森で木を見たとき、真っ直ぐ立っているもののほうが綺麗だと感じていました。でも、陣内さんや井上さんに出会って学んだのは、ぐにゃっと曲がった木の美しさ。自然には一つとして同じものがない。つねにどこかに歪みがある。そうした不均一さの中にこそ美しさがあると気づかされました。
木に生きた証が刻まれるように、酒造りにもまた醸造家の生き様が映し出されると思っています。順風満帆な生き方よりも、むしろ挫折を繰り返した人生のほうが、より深みが感じられるんじゃないかと。

— 井上 僕は夏も冬も定期的に山に通っています。羊蹄山に登ると、ぐにゃぐにゃと曲がったダケカンバに出会う。そういう姿を見てから制作に入ると、すごく良いものができる。山のあの枝の曲がり方を思い出しながら木を削っていく。自分の表現を押し出すんじゃなくて、自然のフォルムそのものが美しい。それをたまたま自分が削っただけだと感じます。もし一年中工房にこもって制作していたら、多分、何がつくりたいかわからなくなってしまうでしょうね。

— 北原 その感覚は酒造りにも通じますね。僕も前職では、1年のほとんどを空調管理された酒蔵で過ごしてきましたが、季節が感じられない環境にこもることは人間的ではないと思っていました。自然に触れることで、人間としての本能が呼び戻される。それが酒造りにも現れるし、木工作品にも現れるのだと思います。

— 井上 雪蟲WØRKSの家具や器を手にした方が、日常でそれを使っているときに、このエリアの自然をきっと思い出してくれる、そんな瞬間を感じてもらいたい。これは単なるものの販売ではなく、自然へどうアプローチしているのか、そのストーリーを作品によって感じてもらえたらと思っています。

004 Wood Worker
Yukimushi Works
雪蟲WØRKS 井上 祐貴 Yuki Inoue

1989年大阪生まれ。幼少時代を神戸で過ごし、10歳から両親の仕事の関係でオランダとデンマークで暮らす。帰国後、静岡の大学に進学。卒業後はホテル業務に従事しながら登山に魅了される。2013年にニセコに移住し、山のガイドを務めつつ家具工房でも働く。蘭越に住まいを移し、2022年に雪蟲WØRKSを立ち上げる。家具工房で基礎を学んだ以外は独学で、道具に触れながら試行錯誤を重ねる独自のスタイルで木工作品を制作している。

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